ミケ的奇想 vol.1

2003年~2022年3月のアーカイブ

メルヘン掌編

マナ聖

[h2vr char="17"] その昔、マナ聖(ひじり)と呼ばれた旅の娼婦がいた。マナ聖は、これぞ、と思う男と恋をし交わった。 男たちは、彼女らに見初められることを求め、しかし、いったん恋に落ちると、彼女が去っていくことを怖れた。 ただマナ聖は、ひとところに…

シッポ種

[h2vr char="17"] おとといから、ずっと尾てい骨がむずがゆくなってきたので、もしやと思っていたら、案の定、シッポが生えてきた。 父がシッポ種で、母が羽根種なので、どちらになるかは五分五分だったのだけれど、父に似てしまったようだ。 いや、そうじゃ…

みかん小僧

[h2vr char="17"] スーパーのみかん一袋に一人はついてくる、薄緑色の顔のあのみかん小僧のことだが、わたしには彼が天使に見える。 その異様な顔色の悪さと、みかんの「まずい汁」ばかりを好んですすっているので、みんな気持ち悪がって、彼を見つけると、…

わたつみマンション

[h2vr char="17"] 中心太陽より25度の傾斜をもった50万光年ほど離れた小さな水の星は、ある筋によると、「わたつみマンション」と呼ばれているらしい。 「わたつみマンション」には、龍や大鯉や大鰐などの海神が住んでいた。彼らは、年頃になると、火の…

パラケルスス翁

[h2vr char="17"] パラケルスス翁がうちをたずねたのは、彼が三百八十八才の時だった。 彼は緑色のゲル状の液体が入ったビーカーを手渡して、それを飲めという。 わたしが躊躇していると、それは、『プリママテリア』だと翁は言った。 プリママテリアいうの…

よろず箱

[h2vr char="17"] よろず堂さんの「よろず箱」は、富山の置き薬のように、昔はどこの家庭でも一箱は置いていたものだった。 このごろは、快く「よろず箱」を置く家も少なくなってきたが、よろず箱の根強いファンも多いらしく、うちの母なども、よろず堂さん…

白い象

[h2vr char="17"] 念願の宇宙旅行を果たしたトミコさんが、夫シゲルさんの元に帰ってきた。 トミコさんと離れていたのは、たかだか10日くらいだったけれど、シゲルさんには一年にも二年にも感じられた。トミコさんとシゲルさんは、今までのように、また仲…

さんだ婆

[h2vr char="17"] さんだ婆のことを悪い予感だと感じる人は多いが、見方を変えたら吉祥に変わる。このことはみんな知っているくせに、心から信じている人は少ない。 さんだ婆の訪問を心から受け入れ、嫌味を笑って受け流し、ほんとうに親切にしてやった人に…

薔薇ことば漁

[h2vr char="17"] 薔薇ことば漁に行ったまま、行方知れずになっていた夫が帰ってきたのは、十年と一カ月後のことであった。 次は、大物をしとめると張り切ってマグロ漁船に同乗させてもらったのだから、1年や2年は帰っては来ぬものと覚悟をしていたのだが…

ジェラルミンケースと双六

[h2vr char="17"] 僕が、地球儀を撫でていると、姉が、大きな真っ黒のジェラルミンケースを 持ってやってきた。夜の十一時を回っていた。 「闇」と名づけたジェラルミンケースの中から、姉は手作りの双六を出した。コマは、姉をそっくりそのまま小さくしたよ…

夜が明けて

[h2vr char="17"] 夫と久しぶりに愛し合った夜が明けて、カーテンを開けると、案の定、牛男がいました。 「いると思ったよ」 というと 「良かったなあ」と牛男が言うので、わたしは耳まで真っ赤になりました。 でも、良かったなあ‥と言ったのは、牛男だけで…

魚先生

[h2vr char="17"] 教室に入ると、いつものように魚先生が黒板を泳いでいた。 魚先生は、このクラスの担任。副担任のシゲコ先生が四月のはじめに黒板に書いた魚で、ぼくたちはこの魚先生からいろんなことを習っていた。 最初、白いチョーク一色で描かれただけ…

雪雷

[h2vr char="17"] 東のカーテンを開けると、あたりの家の屋根はみなうっすらと雪が積もっていました。 雲の向こうには朝日があって、その柔らかい光が、屋根の雪をほんのりと照らしています。 雪が、ほんのりと屋根に載っているようすが、ちょうど15年前に…

あぶすとらくと箱

[h2vr char="17"] ガチガチにかたまった息の詰まるような一つの観念と、まるっきりフォームのない腑抜けのような感覚は、宇宙の果てから見下ろせば、全く対極にあるものなのに、あぶすとらくとという同じ箱に詰められて、シャッフルされているので、一見、双…

完璧に美しい女

[h2vr char="17"] 小川のほとりにしゃがんで、キラキラ光る水面をぼんやり眺めていた時だった。 僕のとなりに、アンドロイドのような完璧な美しさを持った女が並んで座った。 完璧に美しい女は僕を見て微笑んで言った。 「今度遭ったときは、私に何をしても…

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