ミケ的奇想 vol.1

2003年~2022年3月のアーカイブ

ジェラルミンケースと双六

双六

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 僕が、地球儀を撫でていると、姉が、大きな真っ黒のジェラルミンケースを 持ってやってきた。夜の十一時を回っていた。    「闇」と名づけたジェラルミンケースの中から、姉は手作りの双六を出した。コマは、姉をそっくりそのまま小さくしたようなミニチュア。    フィギュアではなくて、自分を複製してから、ドラえもんのスモールライトを当てて作ったのだと姉は言った。つまんでも無表情だ。    双六には、ところどころ、姉の「モトカレ」達のミニチュアが待機していた。モトカレたちも、つまんでも無表情だった。   「趣味、悪いな」    と、僕は言った。

 姉は自分のミニチュアを「スタート」のところに置いた。  僕がサイコロを振った。    でも姉のミニチュアは、サイコロを無視して勝手に進みたいだけ進んで、桜の咲いているマスのところで花見をしている。  僕がまたサイコロを振って「4マス進む」と言っても、ミニチュアの姉は無視をしているので、姉に文句を言うと    「大丈夫。ちゃんと聞いているから」と言う。  だから、僕もしょうがなく、彼女をただ見ていた。

 花見が済むと、ミニチュア姉は突然走り出した。  最初に、5マス先にいたモトカレを殴った。  モトカレは、鼻血を出して倒れた。    そのまま、ミニチュア姉は息を切らせて、マスを進んでは、次々とモトカレたちを殴り倒していった。  姉は涙を流して大笑いしている。    僕が「趣味が悪いな」ともう一度言うと、ミニチュア姉は僕をキッと睨みつけ、「あがり」まで全速力で走った。    「あがり」のマスには、どこかの韓国俳優にそっくりの男が出てきた。  ミニチュア姉を、韓国俳優は抱きしめ、そのままコトがはじまってしまった。    僕は恥ずかしくなって横を向いた。  姉はまだ大笑いしている。    「あがりはSEXなのか?」  と僕が聞くと、  「他に何があるのよ?」  と姉が問い返した。    すべてが終わって、姉はジェラルミンケースに双六をしまった。

 「また明日くるわ」と姉が言った。  僕が「もう飽きたよ」と言うと、  「次は、新しいの作ってくるから。今晩のは『殴る版』だったの。次は、何がいい?」  と、姉が聞いたので  「踊る版」と答えた。    僕は、地球儀を元の位置に返した。  そして、ジェラルミンケースの中の漆黒を想った。     (完) [/h2vr]

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