[h2vr char="17"]
僕が、地球儀を撫でていると、姉が、大きな真っ黒のジェラルミンケースを 持ってやってきた。夜の十一時を回っていた。 「闇」と名づけたジェラルミンケースの中から、姉は手作りの双六を出した。コマは、姉をそっくりそのまま小さくしたようなミニチュア。 フィギュアではなくて、自分を複製してから、ドラえもんのスモールライトを当てて作ったのだと姉は言った。つまんでも無表情だ。 双六には、ところどころ、姉の「モトカレ」達のミニチュアが待機していた。モトカレたちも、つまんでも無表情だった。 「趣味、悪いな」 と、僕は言った。
姉は自分のミニチュアを「スタート」のところに置いた。 僕がサイコロを振った。 でも姉のミニチュアは、サイコロを無視して勝手に進みたいだけ進んで、桜の咲いているマスのところで花見をしている。 僕がまたサイコロを振って「4マス進む」と言っても、ミニチュアの姉は無視をしているので、姉に文句を言うと 「大丈夫。ちゃんと聞いているから」と言う。 だから、僕もしょうがなく、彼女をただ見ていた。
花見が済むと、ミニチュア姉は突然走り出した。 最初に、5マス先にいたモトカレを殴った。 モトカレは、鼻血を出して倒れた。 そのまま、ミニチュア姉は息を切らせて、マスを進んでは、次々とモトカレたちを殴り倒していった。 姉は涙を流して大笑いしている。 僕が「趣味が悪いな」ともう一度言うと、ミニチュア姉は僕をキッと睨みつけ、「あがり」まで全速力で走った。 「あがり」のマスには、どこかの韓国俳優にそっくりの男が出てきた。 ミニチュア姉を、韓国俳優は抱きしめ、そのままコトがはじまってしまった。 僕は恥ずかしくなって横を向いた。 姉はまだ大笑いしている。 「あがりはSEXなのか?」 と僕が聞くと、 「他に何があるのよ?」 と姉が問い返した。 すべてが終わって、姉はジェラルミンケースに双六をしまった。
「また明日くるわ」と姉が言った。 僕が「もう飽きたよ」と言うと、 「次は、新しいの作ってくるから。今晩のは『殴る版』だったの。次は、何がいい?」 と、姉が聞いたので 「踊る版」と答えた。 僕は、地球儀を元の位置に返した。 そして、ジェラルミンケースの中の漆黒を想った。 (完) [/h2vr]