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その昔、マナ聖(ひじり)と呼ばれた旅の娼婦がいた。マナ聖は、これぞ、と思う男と恋をし交わった。
男たちは、彼女らに見初められることを求め、しかし、いったん恋に落ちると、彼女が去っていくことを怖れた。
ただマナ聖は、ひとところに留まることを神により許されておらず、それゆえに、人々からは娼婦だと思われていたに過ぎない。ほんとうは、愛しき人と夫婦(めおと)になることを夢見る、ありふれた女であったに過ぎなかった。
彼女らは、あるところでは女神と呼ばれ、あるところでは修羅そのものとされた。
数千年の時を経て、マナ聖は、薔薇の蕾の中に隠れ、あるいは女の卵巣の中に隠れ、恋文の封印として働く。
彼女らは、見つけられることを心待ちにし、そして怖れてもいる。
マナ聖の戸惑いを慰められた者だけが恋の勝利者。永遠にすら思われた旅の娼婦の暮らしが終わり、聖なる婚姻へと男女を導くのだ。
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