[h2vr char="17"]
小川のほとりにしゃがんで、キラキラ光る水面をぼんやり眺めていた時だった。 僕のとなりに、アンドロイドのような完璧な美しさを持った女が並んで座った。 完璧に美しい女は僕を見て微笑んで言った。 「今度遭ったときは、私に何をしてもいいわよ」 そして、彼女は森の中に去っていった。 あれから僕はほとんど毎日、この小川のほとりで、女に遭えるのを願った。 もし彼女に会えたら、どんなことをしようかと、あれこれとしょっちゅう考えた。 それは恋というのとは、少し違った気がした。 女は言ったのだ。どんなことをしてもいいと。
四十五回目に、女は、僕の隣に座った。 僕は、女を家に連れて帰り、もちろん、彼女を自分のものにした。 そして、決して外に出るなと言った。 アンドロイドのような美しい女は「わかった」と答えた。 僕は好きなだけ女を抱いた。 女は三度妊娠して、僕は責任を取らなかった。 子供を産むときだけ、女が森に帰るのを許した。 子供がどうしているのか、僕は聞いたことがなかったし、女も言わなかった。 そうやって、女と何年も交わっていた。 ある時、風呂から上がった女を改めて眺めると、下腹に傷跡があった。 聞けば、盲腸の手術の痕だった。 アンドロイドの美貌に、手術の痕なんていらない。 僕は、だんだんこの女がうっとおしくなってきた。 「森に帰れよ」 僕は言った。 「私に何をしてもいいけれど、それだけはできないわ」と女は言った。 頭にきた僕は、女を鉄の棒で殴り殺した。 女は抵抗しなかった。たぶん、何をしてもいいからだろう。 彼女はすべてを許した。でも、そのことに僕は気づかなかった。 大汗をかいて、肩で息をしながら、目覚めた。 そこで僕ははじめて、自分が何をしてしまったかに気づいた。 僕は女のために泣いた。泣けて泣けてしようがなかった。 女に逢いたい。 完璧に美しい女の、たった一点の盲腸の手術の痕が、今はもっとも愛おしく思えた。 次に逢ったら、僕は女の手術痕にキスをしよう。 毎日毎日抱きしめて口づけよう。 そして、産み落とした三人の子供を育てよう。 僕の腹に、女神を吹き込んだその女に三たび逢うために、 僕は六百五十回生まれ変わることに決めた。 その日まで、決して裏切ることがないように、僕はペニスを切り落とした。 そしてそれを女の元々の夫だった月の神に託す。 僕は捜す。あの娼婦を。 僕は捜す。あの聖母を。 (完) [/h2vr]