ミケ的奇想 vol.1

2003年~2022年3月のアーカイブ

完璧に美しい女

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 小川のほとりにしゃがんで、キラキラ光る水面をぼんやり眺めていた時だった。  僕のとなりに、アンドロイドのような完璧な美しさを持った女が並んで座った。  完璧に美しい女は僕を見て微笑んで言った。  「今度遭ったときは、私に何をしてもいいわよ」  そして、彼女は森の中に去っていった。  あれから僕はほとんど毎日、この小川のほとりで、女に遭えるのを願った。    もし彼女に会えたら、どんなことをしようかと、あれこれとしょっちゅう考えた。    それは恋というのとは、少し違った気がした。  女は言ったのだ。どんなことをしてもいいと。

 四十五回目に、女は、僕の隣に座った。  僕は、女を家に連れて帰り、もちろん、彼女を自分のものにした。  そして、決して外に出るなと言った。  アンドロイドのような美しい女は「わかった」と答えた。  僕は好きなだけ女を抱いた。  女は三度妊娠して、僕は責任を取らなかった。  子供を産むときだけ、女が森に帰るのを許した。  子供がどうしているのか、僕は聞いたことがなかったし、女も言わなかった。  そうやって、女と何年も交わっていた。    ある時、風呂から上がった女を改めて眺めると、下腹に傷跡があった。  聞けば、盲腸の手術の痕だった。  アンドロイドの美貌に、手術の痕なんていらない。  僕は、だんだんこの女がうっとおしくなってきた。  「森に帰れよ」  僕は言った。    「私に何をしてもいいけれど、それだけはできないわ」と女は言った。  頭にきた僕は、女を鉄の棒で殴り殺した。  女は抵抗しなかった。たぶん、何をしてもいいからだろう。  彼女はすべてを許した。でも、そのことに僕は気づかなかった。    大汗をかいて、肩で息をしながら、目覚めた。    そこで僕ははじめて、自分が何をしてしまったかに気づいた。    僕は女のために泣いた。泣けて泣けてしようがなかった。  女に逢いたい。  完璧に美しい女の、たった一点の盲腸の手術の痕が、今はもっとも愛おしく思えた。  次に逢ったら、僕は女の手術痕にキスをしよう。  毎日毎日抱きしめて口づけよう。  そして、産み落とした三人の子供を育てよう。    僕の腹に、女神を吹き込んだその女に三たび逢うために、  僕は六百五十回生まれ変わることに決めた。    その日まで、決して裏切ることがないように、僕はペニスを切り落とした。  そしてそれを女の元々の夫だった月の神に託す。    僕は捜す。あの娼婦を。  僕は捜す。あの聖母を。    (完) [/h2vr]

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