ミケ的奇想 vol.1

2003年~2022年3月のアーカイブ

瀬見の小川で蝉の羽化

7月某日

 恒例の御手洗祭の足つけ神事で下鴨さんへ。足つけ神事は、瀬織津比売様がお奉りされている井上社までの御手洗川がメイン。

 今年は酷暑過ぎたこともあり、ここ数年の大賑わいとは違って、参拝者もなんとなく少な目に思えた。

 上の写真は、ご神事のある御手洗川ではなくて、境内の瀬見の小川。ここで、相棒ツールの二十面体の水晶を水に浸す。

 突然、親分が「しんでん(神殿)で、セミのさなぎが死んでんでー」と、オッサン川柳を放ってきた。彼の目線の足元を見ると、それは、セミの抜け殻ではなく、動く「さなぎ」。つまり羽化に向かう生の変容の直前だ。

 時は夕刻。羽化するには、ちょっと遅い時間。おそらく、十日ばかり続いた四十度近い猛暑から、急にマシになったので、セミも時間帯を間違えたのだろう。

 「さすが瀬見(≠蝉)の小川っちゅうだけのことあるな」

 などと、またもやダジャレ寸止めの親分。傍のご神木に、そっとセミを移動させてあげていた。

 瀬見の小川で、セミの羽化を手伝うの巻。

 親分には、近いうちに、セミが恩返しにくるでありませう。

 さて、瀬見の小川は、賀茂社の要となる神話の舞台となっている。 

 『山城国風土記』によると、下鴨さんのご祭神の一柱、タマヨリヒメさまが、瀬見の小川で遊んでおられると、川上からどんぶらこっこ…と丹塗りの矢が流れてきた。それを気に入られたタマヨリさまは、寝間に並べてご一緒にお休みになられていたら、お子様を宿され、その子神が、上賀茂神社のご祭神の雷神、カモワケイカヅチノミコトさま、というのが、いにしえの京の神話。

 「矢」というところや、寝室で一緒に寝たとか、もはや、男性自身の暗喩以外にない感じではある。

 神様のお話だから、やんわりと表現されているが、これは、運命の恋の逢引物語。(私が筆者なら、このシーンを、一番盛るよ。笑)

 と、そんな運命的な恋の古代エピソードの地、瀬見の小川で、蝉の羽化の手助けをするうちの夫は、なんだか、とてもヒーローチックなメルヘン大王に思えてくる。

 屋台で大安売りしていた桃を購入し(多少、「ごま」があるだけで、味は絶品なのだ=昨年はもっと安かったよ。今年は豪雨と猛暑の影響か、桃のシーズンが早まってしまったと八百屋さんの談)、帰宅後、家族に好評の、桃モツァレラを作る。

 盛夏の日暮れ、桃モツァレラをつまむ夫は、先のさなぎをふと思い出したのか

 「今頃、ミンミン鳴いとるやろ」と、遠くに鳴く蝉の声に思いを馳せていたのであった。

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