ミケ的奇想 vol.1

2003年~2022年3月のアーカイブ

愛と憤りの夫と娘(と私)

大学受験前、秋の勤勉期真っただ中で、稲妻ロックフェスティバルなぞに行った高3の娘は夜遅く帰ってきて、彼女の大好きなアーティストのTから勇気をもらったと、だから真剣に受験勉強もがんばると私に告げた。こんな時期にロックフェスにいくってどうよ?…とそれまでは思っていたのだが、娘がそれによって力づけられるのなら、それで良かったと思い直した。

深夜遅く就寝した娘は、そのまま午後2時まで眠り、昼日中から、わりとのんびりお風呂と食事をしていて、いつもの休日と変わらず、あんなに勉強がんばると言っていたわりには、まあそんなもんか…とガッカリとまではいかなくても、期待するほどではないもんやなあ〜という感じであった。

私は夫とボンと一緒に買い物に出かけて戻り、それから夕食を作った。
「ごはんやで〜」と、娘を階下から呼ぶ。「はーい」と娘。

降りてこない。
勉強でもしてるかな?

自分のペースでやればいいと思っているので、受験期に入ってからというもの、こういう場合、私もうるさくは呼ばない。2度ほど声を掛け、それでも降りてこなければ、彼女の分は別に取り分けラップを掛ける。

しばらくして夫が上の階へ布団を敷きに上がり、リビングに戻ってきた。
「M(娘の名前)、寝とったぞ。部屋が真っ暗やった」と夫。
昼2時まで寝ていたくせに、晩の8時にまた寝てるとは情けないな…と思っていると、目の前の夫は私の3倍くらいのテンションで怒っていた。

「別に行きたくないのなら、大学なんか行かんでも、じゅうぶん生きていける!」と夫。

「あの子、行きたくないとは言うてないで」と、娘側に少し転じる私。

「どこでもええから大学行ければいい…という程度のモチベーションなら、行く必要なし!このごろの京都は、しばらくなかったくらいの空前の売り手市場で高卒は引く手あまたや。無理やり大学なんか行かんでも就職はできる」

まったくの正論であった。

かつて夫は、当時の家庭の事情で、中学を卒業したあとは新聞配達やアルバイトをしながら奨学金をもらい苦学をして学校に通った。自分が学生時代、何も親に相談できなかったことの辛さを子供らには味わわせたくないと、今までずっとがんばってきてくれた。それは本当に頭が下がる。受験科目にデッサンの課題があるというので、予備校に加え、画塾にまで通わせている。塾も画塾も、娘から通わせて欲しいと頭を下げて頼んだことに応えたのだが、それにしてもこのていたらく……。

「どの家もあるのかもしれんけど、親の心子知らずや」と夫は続けた。

「見えてないところで、それなりに勉強はしてると思うよ。受験に関してはめっちゃ厳しい高校なんやし」と、それでも少し彼女をかばうと、

「本気でやっとったら伝わる。こんなに伝わらんのはやっとらんからや」とバッサリ。「…本気で(塾に)行きたいのなら、バイトでもなんでもして行きゃええ!」

私は昨夜、彼女が本気になったことをちょうど聞いたばかりだったので、夫の意見に理解はしつつも、すぐに彼女をはねる気にならず

「…昨日、フェスで『Tからやる気をもらった』って言うてたし、そのうちに……」と言いかけると、

「アホか…。やる気になった次の日にこれやぞ!だいたい受験生が秋に丸一日遊び呆けて、翌日は丸一日寝とって……何がやる気じゃ!」

うむ……確かに。これ以上、どないしてかばえっちゅうねん。どアホ、娘!

「『大学に行く必要なし』とMに言っておきなさい!」と言われ、はーーとため息。全く私自身も自分の意見というものを見失ってしまった。

とにかく大学に行くというだけのことなら、今のご時世、行ける大学はなんなりとある。自分もそうであったし、まあ、それはそれでええかな…と思っていたのだが、そのへんは厳しい環境で育った夫とは意見が違う。夫は、ただ大学に行くだけなら意味がないという考え方である。夫の方がたぶん正論だ。

モチベーションがないまま、ただ塾に通っているだけというのは、たいへんな無駄だと私も思う。

モチベーションが低いことが悪いということではなく、それはそれでしょうがないことだ。ただ、そんなモチベーションならやめた方がいい。親もキミも負担だろう?ってこと。キミはどう思うか?どうしたいのか?
まあ、この点を詰めて行くしかない。

ただ、私としては、「あなたはこれで良い」というメッセージは伝えていたいし、おかーちゃんの最大の役目は、どうあろうとアンタは最高で、いつだってかーちゃんはアンタの一番の味方であるということを伝え続けることなのだけど、双方を誤解無く小娘に伝えるのは、親としても工夫を要するところ。

しかし、こういう時は、母性vs.父性みたいになることが多い。

かーちゃんからすれば、幸せでいてくれたらそれでええんやし、まあ、そんなうるさいこと言わんでも…という方向に行きがち。

ところが、父性の方は、しっかりと将来を見据え、今、するべきことを問う方向に向かう。進路を考える場合、わが家ではとーちゃんに仕切ってもらう方が建設的で、ゆくゆくはうまくいくんじゃなかろうか。

いろいろ書いたが、結局は娘の運命を信じるだけだ。(←テキトーかーちゃんにかかると、すぐに究極の論になってしまうが)

夫や私もそうであったように、必要なことが起こり、必要なことをし、それに導かれて仕事をし家庭を営むようになった。

やる気がなければ、一番行きたい大学には行けないし、その結果、第2か第3の大学に行くか、あるいは就職するかだし、そこで必要なだれかと友人になり、また恋人ができたり、その次元で世界が広がっていく。その結果、今は脳裏に掠めてもいない何かを志すようになるかもしれない。

それは、私たち親ではなく、あの子が持っているものだ。それを信頼するしかない。なんとかなる。

そんなふうに思えば、すべてこれでよし。十全である。
今、彼女のモチベーションがあいまいなことも。
それを見て、夫が憤り、塾を辞めさせるかもしれないことも。

これから起こるだろうアクションやら、ハレーションやらが、運命をしかるべきところへ招くのだろう。

かーちゃんの立場からすれば、それを見守るしかないし、夫からも娘からもそれぞれに意見を聞いてあげることしかできない。(というのは、この件に関して、私自身「これが良い!」って意見を持っていないから。それに双方の意見や気持ちについて、それぞれ理解できるから)

まあ、そんなわけで、泣いたり笑ったりしながら、ささやかな茶の間物語はこれからも続いていくのであーる……。

 

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