その刹那が記憶されて、心に焼き付きます。
このあと五円玉は倒れてしまいます。
そして、立っていたことは、それを見ていなかった人にとって、なかったことになります。
倒れている五円玉は、立っていた青春を忘れるのでしょうか?
青春は、五円玉の記憶の中にしかありません。
やがて五円玉は、だれかの財布の中に納まり、テーブルの上から消えます。
すると、
まるで、最初から五円玉という存在がなかったように思えます。
でも、私の記憶の中には、セピア色に五円玉の残像が浮かびます。
現実の目前には、テーブルしかないのに。
そのとき、私は幻を見ています。五円玉の青春を見ています。
五円(ご縁)玉がいなくなっても、私はそれを見ています。
私の意識の中だけに、生きています。
義父の初七日に捧げます。