ミケ的奇想 vol.1

2003年~2022年3月のアーカイブ

ジュモンモの奇跡

その日は、ずっと気になっていた婦人科系の処置の日だった。 久々の婦人科の手術台にちょっとドキドキしたが、ベテランの先生と優しい看護婦さんとお喋りしながら無事終了。

かんたんな日帰り手術とは言え、麻酔とレーザーメスの入るそれなりに本格的なものだったこともあって、緊張しっぱなしで、終了後も心臓がバクバクしていた。ただ、終わったあとは、五感がよく働いているというか、多少感傷的になっているようで(なんだか思春期みたいねぇ…笑)なんて思いながら、心臓の高鳴りを落ち着けたくて、大好きな韓国茶屋に入った。

静かで薄暗い洞穴のようなお店。ここに一人で来たのは、たぶん2回目で、いつもは友達とゆっくりと話し込む時に選ぶカフェ。

(今日は贅沢をしよう)と、なんと一杯千円もする十夢母(ジュモンモ)茶という十種の薬草を煎じたお茶を飲んだ。十夢母という名前に惹かれて選んだのだが、これがこの日の私に大当たり。濃い深紅色はさきほどの処置で失った血を取り戻したように気分にさせてくれた。 熱々のお茶がたっぷり注がれた大きなカップは少しいびつだが、それがかえって手になじんで、浮かんだ薬草の実が揺れている様子を眺めるために、器がわざといびつに成形されているようにも思えるくらいだった。

血のような紅色をただただ眺めるだけで癒される心地がする。術後の敏感な心理状態だったから強く感じたのかもしれないが、こんなお茶を飲むのは初めて。

薬草のほのかな香りが鼻腔に柔らかく入ってきて、エリックサティを彷彿とさせるピアノ曲と、外人カップルの静かな話し声が、どういうわけか和音を伴った一つの曲のようで、それは奇跡的ですらあった。その美しい旋律は、暖かな振動を手のひらに伝え、その中でお茶は紅くさざ波が立つ。

……その瞬間だった。「わたし」の気配が消えた。まるでそこの「土壁」になったような、その場に溶け込んでしまったような、お茶に沈み込んだような…。 五感すべてで体験するお茶は、何もかもが信じられないくらい美しかった。

静かに興奮していた私は、精算時にスタッフの方に「しつらえもお茶も全部が完璧でした。芸術的でした」と感想を伝えた。「まあ!」と答えてくださったスタッフの方から、韓国を中心としたシルクロードがテーマとして作られたお茶屋さんだと伺う。「本気、ですね」というとにっこりとうなずかれていた。

※烏丸三条の『素夢子』というこのお店は、独りか、あるいは沈黙でも気を遣わなくてもいいような気心の知れた方とのお時間にオススメです。ランチの終わった15〜16時くらいが静かでいいですよ。

1日に10分でも、こんな豊かな時間がお家でも持てたらいいのだけれど……ねえ。^^

十夢母茶が欲しくて、スタッフの方に聞いたけれど、それは企業秘密ということだったが、店頭で薬草がいくつか販売されていたので「なつめ茶」を購入。

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