この世界だけに生きることが どんなにラクで素敵かをわかっても 前の世界の余韻が抜けるには、ちょっと猶予があるみたいで 前の世界にいるあの子が「かつてあったこと」のように 扱ってもらいたがっているみたい。
たぶん「忘れちゃいやだ」と、だだをこねているだけだから 「忘れないよ」といったん抱きしめて 抱きしめたまま、この世界にいっしょに跳んでみる。
目を開けると、腕の中のその子は、消えてしまっていて この世界は、抱きしめたまま持ち込めるものは 一つもないのだとわかり
でも、どこかに落としてきたかもしれないと すこし罪悪感にかられ、あたりを探す。
夢の中だけに存在していたその子は 心配しなくても、どこにもいない。
なんと最初から、どこにもいなかった!
ただ 夢を見ていただけ。 その子の夢を見ていただけ。