幼いころ住んでいた古家の2階は二部屋あって、西側が父母の寝室で、東側が私と弟の幼い姉弟の部屋だった。
あれは、小学校の低学年くらいか、あるいは保育園児のころだったかもしれない。
ふと、夜中に目覚めると、足元に祖母が立っていた。
「あ、おばあちゃん」
と、呟いたかどうかは定かではないが、祖母は、私を見て、にっこりと微笑んだ。
そして、次の瞬間、忽然と消えてしまった。物音一つ立てずに。
その時初めて、私は幽霊に似た祖母のまぼろしを見ていたことに気づいた。
驚いたけれど、ちっとも怖くなかった。
祖母は、優しく微笑んでくれていたし、何より、当時おばあちゃんはまだ健在だったのだから。
ただ、最も可笑しいことは、まるでスイッチを押して電気が消えるように、祖母が目の前からさっと消えてしまったことだ。
昔々の人なら、これを「生き霊」なんていうのかもしれない。
しかし、恐ろしいことは本当は一つもない。
祖母は、その後40年、98歳で大往生するまで、おおむね元気で、おおむね幸せに生きたのだから。